「いらっしゃ……おっ、蜜柑ちゃんじゃないか。こんな時間に珍しいね」
「えへへ。こんばんわ、おじさん」
　店長のおじさんはわたしを見るなり驚きの声をあげてビックリしています。
　考えてみれば、当たり前ですよね。
　夕方の常連さんであるわたしがこんな時間に来たんですから。
　コンビニの店内にはわたしとおじさん以外人の姿はありません。
　やっぱり夜は人が少ないのは仕方のないことですよね。
　沢山沢山いろんなものが並んでいますが、なんだか寂しいです。
　さて……何を買いましょう。
　いろいろありすぎて、目移りしてしまいます。
　ポテチ、チョコレート、海老せん……どれもこれもおいしそうです。
　レジの前のケースには肉まんやあんまんなどの中華まんもいろいろはいっています。
　とってもおいしそうですが……あれ？
　あのケースにはいってるのって……ひょっとして……
「おじさん、これって……おイモ、ですよね？」
「ああっ。そうだよ。今日からうちの店でも扱うことにしたんだ。蜜柑ちゃんだったらヤキイモ沢山サービスしてあげるよ」
「うわぁ？本当ですか？」
　決めました！わたし、おイモを買うことにします。
　やっぱり冬は暖かいものがいいですよね。
　石焼きじゃないのがちょっと残念ですけど、そこまで贅沢は言えませんよね。
「おじさん、おイモ２つください」
「はいよ」
　おじさんはケースを開けると、おイモを３つ取り出して袋に入れました。
「あれ？おじさん、わたし頼んだのは２つなんですけど……」
「ああ、１個はサービス。蜜柑ちゃんは常連さんだからね」
「うわぁ！本当ですか！？ありがとうございます！！」
　ああ、なんて幸せなんでしょう。
　おじさんの好意で１つ余分に頂いてしまいました。
　とっても嬉しいです。
　わたしはおじさんにお礼を言って代金を払いました。
　するとおじさんは、缶入りのジュースをおまけだと言ってわたしに渡してくれました。
「あの、おじさん……これは？」
「ああっ、試供品だよ」
「試供品？」
「そっ。時々メーカーから入ってくるんだけどね。売り物じゃないから」
「そうなんですか？」
　わたしはその缶をよく観察してみました。
　確かに試供品という文字がしっかり刻み込まれています。
「ジャスミン茶……ハーブティーですか？」
「そうだよ。ひょっとして蜜柑ちゃんは、そーゆーのは嫌いかい？」
「い、いえ！そんなことはありません！とっても大好きです！！」
　ああ、こんなにいろいろといただいてしまってよろしいのでしょうか？
　今日はとってもステキな日です。
「それじゃあおじさん、ありがとうございました」
「いいっていいって。これからもうちの店、よろしくね」
「はいっ！」
　わたしはそう元気よく返事を返しました。
　するとその時です。
　サングラスをかけてマスクをした一人の男性の方が店の中へと入ってきました。
　なんだか暑そうな格好をしています。
　風邪でもお引きになられたのでしょうか？
　その男の人はまっすぐレジの前にやってくると、突然包丁を取りだしました。
「おい！！おとなしく金を出せ！！」
　そしてその刃物をわたしの首筋につきつけました。
「……えっ？」
　どどどどど、どうしましょう！！
　わたし、人質になってしまいました！！
　この先わたしは一体、どうなってしまうのでしょう！？