着替え終わった葵が部屋を出て一階へと降りていくと、姫子が腕組みしながら待ち構えていた。
「もぅ遅いじゃない！！日が暮れるかと思ったわよ！！」
「あのなぁ……日なんかまだ昇ってねーだろ？」
「当たり前じゃない！！昇ってたら大問題よっ！！」
　姫子は虫の居所が悪いらしく、葵に怒鳴り散らす。
　葵は大きく溜息をついた。
「あのなぁ……朝から何怒ってるんだ？」
「あんたがいけないんじゃないのっ！！」
「俺がいけない……って、ひょっとして俺が見た夢のことか？」
　葵は宙を見上げ、考え込む仕草を見せる。
「そう言えば……姫子が出てきたような……」
「だ、だから思い出さなくていいって言ってるでしょ！！」
　姫子は顔を真っ赤にして、葵の言葉を中断させる。
「どうしてだ？」
「どうしてって……と、とにかく！！」
　姫子はコホンと軽く咳払いをする。
「バカなことやってないで、さっさと行くわよ！」
「へいへい」
　葵もこれ以上言うことはせずに、靴を履いた。
　そしてドアのノブに手をかける。
　すると、タイミングを合わせるかのように、ピンポーンとチャイムが鳴った。
「はい」
　すぐさま葵は戸を開ける。
「わっ！？」
　同時に驚きの声が上がった。
　チャイムを鳴らしてすぐに戸が開いたことにビックリしたのか、晴れ着姿の奈緒が驚いた様子で立っている。
「なんだ。奈緒だったのか。どうしたんだ？」
「あ、うん、うんとね。あけましておめでとう、アオくん」
　気を取り直して奈緒はにっこり微笑むと、年始の挨拶をした。
　だが葵は、そんな奈緒に対し怪訝そうな表情を浮かべる。
「当てましておめでとう？なんだ奈緒？宝くじでも当たったのか？」
「『当てまして』じゃなくって『あけまして』！！」
　奈緒は力強く訂正すると深く溜息をついた。
「はぁ〜。新年早々こんなんじゃ、先が思いやられるよ」
「全く冗談が通じない奴だな。奈緒、あけましておめでと」
　葵は笑いながら奈緒の頭を撫でる。
「うん……」
　奈緒は頬を赤く染めると俯いた。
「ちょっと葵……そこにいると邪魔なんだけど？」
　そこへ背後から迷惑そうな声が聞こえてくる。
「おお、悪い悪い」
　葵は奈緒の頭を撫でるのをやめて、外へと出た。
「あけましておめでとうございます、紅林先輩」
「あけましておめでとう、姫子ちゃん」
　姫子と奈緒が年始の挨拶を交わす。
「それにしても、こんな早い時間にどうしたんだ？」
　葵は不思議そうに奈緒に尋ねた。
「初日の出一緒に見ようと思って」
　奈緒は予想通りの答えを返す。
「それはちょうどよかったな。俺達、これから初日の出見に出かけるところだったから」
「えっ？そうだったんだ？じゃあちょうどよかったね。えへへ……」
　奈緒は嬉しそうに笑った。
「まぁ……そうだな……」
　葵は返事をしながら空を見上げた。
　空はまだミッドナイトブルーに染まったままで、日が顔を出す気配はまったく感じられなかった。