まだ薄暗い街の中を、３人は歩いていた。
　普段なら不気味なくらい静まり返ってるはずの街中も、新年と言うこともあり、ちらほらと人の姿が見受けられる。
　中には姫子や奈緒と同じように、晴れ着姿の女性もいた。
「やっぱりお正月って言うと、人が多いね」
　奈緒はそんな人達を見ながら感心したように言った。
「そりゃそうだろう。俺達のように今から初詣に行こうって奴もいるだろうし、２年参りの帰りの奴もいるだろうから」
　葵は今更と言う感じで答える。
　奈緒は葵を見ながら質問をした。
「それで、アオくんと姫子ちゃんは、どこに初詣に行くつもりだったの？御神本大社？それても……」
「もちろん、沙夜先輩の宗像神社だ」
「あっ、やっぱり？」
　予想通りの答えに、満足そうな表情を浮かべる。
「ええ。葵とも話したんですけど、初日の出が綺麗に見れる場所っていうことになって、それで宗像先輩の神社になったんです」
　姫子が補足説明をする。
「確かにあの神社って高いところに建ってるから、初日の出綺麗に見えそうだよね。それに、アオくんの思い出の場所だし」
　奈緒は嬉しそうに微笑んだ。
「まぁ、御神本大社の方は人で混雑しているだろうし……」
　葵は言葉を濁す。
　御神本大社は県内でも５本の指に入るほどの敷地面積を持った神社で、宗像神社よりも古く、由緒がある。
　当然このような日には屋台が建ち並んでおり、人々の混雑に拍車をかけているからたまったものではない。
　それに、葵には個人的に行きづらい事情もあった。
「御神本大社……かぁ……」
　葵は小さく溜息をついた。
「どうしたのアオくん？」
　その様子を、奈緒が不思議そうに見る。
「あっ、いや、ちょっとな……」
「あっ……そう言えば、小さい頃ボク達が遊びに行ったのって、御神本大社だったもんね」
　奈緒はなんとなく葵の事情を察したのか、懐かしそうな視線になって、しらみ始めた空を見上げた。
「まぁ、御神本大社は参拝客が少なくなってから行けばいいよ。あの人ごみ地獄を姫子に味あわせてやれないのが残念だが」
「あたしだってそんなの味わいたくないわよ！！」
　姫子は葵に向かって舌をべーっと出す。
　そんなたわいもない雑談を交わしながら、３人は宗像神社に向かった。
　やがて、宗像神社の象徴とも言うべき竹林が見えてきた。
「あれは？」
　ふと葵は、前方から葵達の方に向って歩いてくる見知った少女の姿を発見した。
「あっ！アオちゃん！！」
　その少女は葵達の姿を発見すると、大きく手を振りながら葵達の元に駆け寄ってくる。
「アオちゃん、奈緒ちゃん、姫ちゃん！あけましてオメデト！！」
　その少女、楓は葵達の前で立ち止まると、元気よく年始の挨拶をした。
「おめでと、楓」
「あけましておめでとう、綾杉さん」
「あけましておめでとうございます、綾杉先輩」
　３人も年始の挨拶を返す。
　楓も、奈緒や姫子と同じく晴れ着姿であった。
「いやぁ、それにしてもこんなところで会うなんて奇遇だな。俺はてっきり、楓は御神本大社の方に行ってると思ったんだが……」
　屋台があるからという言葉を飲み込み、葵は楓を見る。
　すると楓は苦笑しながら頭をポリポリとかいた。
「あはは。ちょっと、御神本大社の場所がわからなくなっちゃって。ホントは屋台あるからあっちの方に行きたいんだけど……アオちゃん達も御神本大社に行くの？」
「いいや。俺達はこの宗像神社だ」
　葵は竹林の上を指差す。
「御神本大社に行きたいんなら、この道をまっすぐ行って、右に曲がって大通りに出れば、すぐわかると思うぞ？人の流れに身を任せればすぐ着くだろうから」
　そして葵は、楓に御神本大社への行き方を教えた。
「ホント？うーん……でも……」
　楓はしばらく考え込む仕草を見せると、やがて顔をあげた。
「決めた！あたしも、アオちゃんたちと一緒に宗像神社に行く！」
「はぁ？そりゃ別にかまわないけど……」
　予想外の答えに、葵達は一瞬顔を見合わせる。
「でもいいのか？俺達は初日の出見てお参りするだけだぞ？」
「うん！だって、アオちゃん達と一緒の方が楽しそうだから！」
　楓は元気一杯の笑顔を浮かべて大きく頷いた。
「まぁ、それなら……じゃあ、いこっか」
　葵はそう言うと、３人の少女と一緒に石段を登り始めた。