葵一行は、社から少し離れた場所にある販売所へとやって来た。
　沙夜の方も既に葵の存在に気づいていたらしく、葵が来ると嬉しそうに微笑みながら軽く会釈をした。
「あけましておめでとう、沙夜先輩」
「あけましておめでとうございます、葵さん、それに皆さん」
　葵が年始の挨拶をすると、沙夜も年始の挨拶を返す。
　そして他の少女達も、沙夜と年始の挨拶を交わしあった後、神主とも挨拶を交わした。
「それにしても大変だね、沙夜先輩。寒くない？」
　葵は沙夜に声をかける。
　沙夜は笑いながら小さく首を横に振った。
「いいえ、大丈夫ですよ。だって、ほら……」
　沙夜は足元を指差す。
　するとそこには赤々と燃えたストーブがあった。
「なるほど……」
　葵は納得したように頷く。
「ははは。流石に寒いからな。まぁ、コレくらいやっても罰は当たらないだろうから」
　神主は豪快に笑いながらお守りを指差す。
「一つ買っていかないかね、葵君？沙夜がお世話になってることだし、ひとつ５００円のところをひとつ１万円にまけといてあげよう」
「高くなってるじゃないですか、それ……」
　葵は苦笑せずにはいられなかった。
「もう、叔父さん。葵さんを困らせないでください」
　沙夜が少し表情を曇らせて、困ったように溜息をつく。
「そうかそうか。すまんすまん。はーっはっはっはっはっはっ」
　神主は豪快に笑い出した。
　外見とは似使わないような沙夜の性格は、この叔父の影響を受けているのではないかと、葵は思わずにはいられなかった。
　とりあえず葵は当初の目的を果たすことにした。
「みんな、どれがいいんだ？好きなもの選んでくれ」
　葵の声に、少女達が楽しそうに声を掛け合いながら自分のお守りを選定し始める。
「紅林先輩は、やっぱり恋愛成就ですか？」
「ち、違うよぉ！姫子ちゃんこそ恋愛成就じゃないの？」
「あたしは……無病息災、かな？綾杉先輩は？」
「あたしはもっちろん病気平癒かな？」
「えっ？綾杉さんって、何か病気にかかってたの？」
「ううん、なーんにも。『病気平癒』って、聞いたことない言葉だったから」
「『病気平癒』って言うのは、病気が治ることですよ、綾杉先輩」
「へー。鈴歌ちゃんって物知りなんだね」
「えっと……あたしが物知りってわけじゃないと思うんですけど……萌、あたし達はどうする？」
「うーん……萌も無病息災にしておこうかなぁ……」
「あれぇ？萌は恋愛成就じゃないの〜？」
「もぅ……姫子ちゃんの意地悪……」
　耳を済ませると、そこにはとても騒がしい空間が広がっていた。
　そしてようやく各自が買うお守りが決まり、葵は代金を沙夜に支払った。
　少女達は口々に、葵にお礼の言葉を述べる。
　葵は少しだけ照れくさい気分になって、沙夜に話しかけた。
「ところで沙夜先輩って、晴れ着はきないの？」
「私ですか？私は巫女を務めなければいけませんので……」
「そっかぁ……残念だな。沙夜先輩の晴れ着姿見たかったけど……」
「葵さん……」
　沙夜は葵の言葉に、複雑な表情を浮かべる。
「私……」
「あっ、見て！」
　そして何かを言いかけたとき、突然飛び込んできた姫子の声によってさえぎられてしまった。
「ほら、日の出よ！！」
　姫子の指差す方向に、みんなが一斉に振り向く。
　暗く深い青色から、徐々に白みはじめていた空の色が、赤く変色していく。
　眩しい光。
　地平線の彼方から、ゆっくりと太陽が顔を覗かせる。
　それはまさしく、今年最初の、そして葵にとっては最後の初日の出であった。
「綺麗だね……」
　奈緒達は感動の面持ちで初日の出を眺める。
「…………」
　しかし葵と姫子、それに沙夜はその初日の出を、複雑な思いで眺めていた。
　冷たい風が、神社の境内を吹き抜けていった。