「あっ、お餅つきやってるんですね」
　突然背後から聞き覚えのある声がしたので、葵達は一斉その方角を振り返った。
「あっ？」
　そして葵達は、一様に驚きの声を上げる。
　そこには先程の巫女装束姿ではない、晴れ着姿の沙夜が立っていた。
「改めて、あけましておめでとうございます、みなさん」
　沙夜は深々と一礼する。手にはなにやら細長い風呂敷包みのようなものを持っていた。
「あけましておめでとうございます、沙夜先輩」
　葵達も改めて年始の挨拶を返す。
　そこには正月の見慣れた風景があった。
「いくらお呼びしても誰もいらっしゃらなかったんで……まさかお持ちつきをやっているとは思いませんでした」
「いやぁ、正月って言ったら、やっぱりこれでしょ？でも沙夜先輩いいの？神社の方？」
「雪乃さんが行って来てもいいとおっしゃってくれたんで」
　沙夜は少し頬を赤らめながら恥ずかしそうに話す。
「それで、あの……お台所お借りしてもよろしいでしょうか？」
「台所？別にかまわないよ。餅もつきあがったところだし、これから食べるところだから」
「そうですか。それじゃあ上がらせてもらいますね」
　沙夜は草履を脱いで、リビングへと上がる。
「台所はその部屋出て曲がったところの突き当たりにあるから」
「はい、わかりました。それではお借りさせていただきます」
　沙夜は軽く会釈をすると、そのまま台所へと向かっていった。
「じゃあ、ボク達も沙夜先輩の手伝いしてくるね」
「お餅にからませるの、作るんですね？」
　奈緒の言葉に、鈴歌がピンと指を立てる。
「それじゃあ、よろしく」
「うん！！」
　奈緒はつきあがったばかりの餅を寿司桶の中へと移しいれた。
「私もお手伝いします、紅林先輩」
「萌もお手伝いするよ」
　寿司桶を持って、リビングへとあがった奈緒の後に続いて姫子、鈴歌、萌がついていく。
　葵は邪魔にならないよう臼を片付け、リビングにある長方形のコタツにあたりながら餅が運ばれてくるのを待つことにした。