そして翌日の夜。
　放課後図書室会議で召集をかけられたメンバーの一部は、俺の家のリビングに集合していた。
　全員……と言えないのは、所要な二人……つまり、瑞希と静乃がまだ来ていないからである。
「信じらんない！！瑞希も静乃ちゃんもドタキャンするなんて！！非常事態だっていうの、わかっているのかしら！？」
　約束をすっぽかされたと決め付けたマリィは、早くもおかんむりだ。
「緋山さん！！折坂先生！！こうなったらあたし達だけで頑張りましょうね！！」
「え、ええ……」
「そうね！頑張りましょう！！」
　みこピーはどこか頼りなく、花乃香は何故か嬉しそうに答える。
「安心して功司くん！！あなたの命は、あたしが絶対に守って見せるわ！！」
　そしてマリィは俺に向かって、力強くこぶしを握り締めた。
「あ、ああ……」
　俺も、マリィの気迫に圧倒されて、思わず頷く。
「？どうしたの？」
　そんな俺に対して、マリィは首を傾げた。
　どうしたも何も、そんな格好を見れば首のひとつも傾げたくなるもんだが……
「ちょっと聞いてもいいか……？」
「なに？」
「その格好なんだが……」
「この格好？やっぱ怪盗と戦うには、それなりの装備をしなくっちゃね」
　マリィは堂々とした姿で言うが、格好が格好なだけに、やっぱりしまらない。
　なんせ鍋をかぶって、お玉を持ったエプロン姿なんだから。
「花乃香の格好も、やっぱりマリィと同じ理由なのか？」
「だって、大事件には報道記者が必要不可欠でしょ？」
　花乃香は当然と言わんばかりに胸を張る。
　制服姿で腕に『報道』のワッペンをつけ、メモ帳と鉛筆を手にした花乃香の興味は、どうやら事の成り行きだけらしい。
　まぁ、おそらく自分の小説のネタにするためなんだろうが。
　マリィも花乃香も、少しはスーツ姿のみこピーを見習ってほしいぜ。
　……待てよ？
　……ひょっとして……瑞希や静乃も、マリィや花乃香のような、特殊な格好してくるために、来るのに時間がかかってるんじゃないだろうな？
　……十分ありえるな。そういえばいつだったか沙夜が遊びに来た時、沙夜のいる世界では「牧村少女探偵団」なるもの結成してコスプレを楽しんでるって言ってたからな。
　確か沙夜が着物姿で「桧垣沙夜」、瑞希が羽織袴の髪ぼさぼさ姿で「金田一ミズキチ」、静乃がタキシードの片メガネ姿で「アルセーヌ・静乃」だったような。
　一緒に居合わせた瑞希も静乃もあんまり興味なさそうに聞いてたみたいだったけど、今回は怪盗が相手ってことで、向こうの世界の瑞希や静乃の格好してくる可能性は、十分考えられるな。「怪盗には探偵で対抗よ」とか、「怪盗には怪盗で対抗ですよ」とか。
　まぁしかし、あいつ相手にそんなことするまでもないんだが……
　時計の針は、もうすぐ１２時を指そうとしている。
「それにしても、怪盗とやら遅いわね……まさか尻尾巻いて逃げ出した、とか？」
　マリィがチラッと時計を見て、ぼそっと呟く。
　と、その時。
「フフフフフ……」
　突然リビングの電気が消え、鍵を閉めていたはずのガラス戸が開いたかと思うと、冷たい風と不気味な笑い声が入り込んできた。